君といる時間


「ん…時間だぞ。」
「……分かった。」


最近短くなった二人きりの時間に

不満がないわけじゃない。


###############

「おーい、子津〜〜っ!一緒に行こうぜ!!」

「あ、猿野くん。今からっすか?」

放課後、掃除当番を終えて少し遅めの部活への道。
子津忠之介は、部活仲間の猿野天国に声をかけられた。

「ああ、ちょっとヤボ用でさ。」
天国はにこっと無邪気な笑みを見せる。

その笑みに、子津は鼓動が高まるのを感じた。

猿野天国は一見いい加減で、ふざけてばかりの生徒だと見て取られるが。
話せば、意外と真面目な考え方の持ち主で。
律儀な所もあり、意地っ張りなところもあるが、根は素直に物事を感じ取る少年だった。

そして、今ではそんな彼の魅力は野球部員たちの心を掴んで離さなかった。


子津も、天国の魅力に捕らわれた一人であった。


「じゃあ、一緒に行くッすよ。」
子津は思いがけず天国と二人になれた今の状況をとても嬉しく思った。


しかし。

「よう、猿野に子津っ。」
「「え?」」
突然の邪魔が入る。

声の主は、同じ一年で野球部、女子マネージャーの清熊もみじだった。

「あれ、もみじおねーさまもこれから?」
「ああ、オレも掃除当番だったんだよ。」

「そ、そうだったっすか。」
子津もなんとか笑顔を作る。
内心では、すぐに潰された天国との二人っきりの時間を惜しんでいたが。

だからといって清熊をせめても仕方あるまい。

そう思った。


「あ、あのさオレも一緒に行くぜ!」

「?別に言わなくてもいいじゃん。
 一緒に行こうぜ?」

天国は清熊が焦った様子で言った言葉に、何の疑問もなくすんなりと答える。

(清熊さんもっすか…。)

(よかった…断られっかと思った…。)


二人それぞれの思いが散る。


しかし、二人の思いは今の所天国には全く影響を及ぼさないようだった。



############

その日も、いつも通り滞りなく部活動は行われていた。

天国もいつも通りよく笑って、元気で、まぶしいほどに明るくて。

そんな彼を他の部員たちは、部活動の傍ら、甘い眼差しで見つめていた。


その時。

「…っ!」

子津とキャッチボールをする天国の隣で、
同じように辰羅川とキャッチボールをしている最中だった犬飼が、突然動きを止めた。


「犬飼くん?どうしたんです?」

相方の辰羅川の意見も耳に入らないのか、犬飼はある方向を凝視していた。


「…猿…っ!」
突然、犬飼は隣にいた天国に近づくと、胸倉をつかんだ。


「な…っ?!何だよ、いきなり?!」
犬飼の行動に、目を見開き天国は驚いた。


「犬飼くん!!いったいどうしたというのです!!」

「やめてくださいっす!」

一番近くにいる辰羅川と子津が止めに入る。

しかし、犬飼の耳には一向にはいっていないようだった。




「犬飼!?」


再度、天国は大声で相手の名を叫ぶ。


すると、犬飼が重苦しく口を開いた。


「…猿、これ…誰につけられたんだ…。」

「!!」

犬飼の言葉に、天国ははっと気づくと首筋を押さえる。


「え…。」
天国の反応に、周りにいた者たちは大体の事を察知した。


つまり、犬飼は天国の首筋に見つけたのだ。
あきらかに人の唇で吸い付いた痕を。

他の部員たちと同じく、天国に想いを寄せている犬飼にとっておいておくことのできない事実だった。

そして、そのことを察知した他の部員にも動揺が走る。



天国に特別な人物の影が。




############


その頃、報道部の部室からグラウンドを眺める人影があった。


天国の親友 沢松健吾である。

「おーお。やってるやってる。」

沢松は口元で薄く笑った。


「もう少し早いかと思ったんだけどな?」


そう。

天国の首筋にあった痕は、沢松によるものだった。

つけたのはついさっき。


授業を終え、部活に向かうまでのわずかな時間だった。




「おめーが悪いんだよ、天国。」



###########


最後の移動教室の授業を終えた後、天国と沢松の二人は、ホームルームをさぼり、
二人きりの時間を楽しんでいた。

特別教室棟の階段の踊り場。
深い深いキス。

だが、ホームルームの時間を加えたとしても、長い時間であるはずもなく。


「…もう時間だな。」
「ああ…行くのか?」

潤んだ口元を軽く拭いて、天国は部活に向かおうとする。


「最近時間短くなったよなぁ。」
「しかたねーだろ、野球部入ってんだし。」

「……。」
沢松は無言で天国の手を引いた。


「…っ。」

そして、首筋に口付ける。


「こ…らっ!!」
天国は、痕をつけられたのではないかと焦る。
これから大勢の前で服を脱いで着替えるのに、冗談ではない。


「つけてねーよ、冗談だって。」

「ったく…ならいいけど、オレの静かな野球部生活を終わらせるようなマネはすんなよ!」

そのあとも一通り文句を言うと、天国は走って部活へ行った。




「『オレの野球部生活』ねえ…。
 終わらせたいくらいだっつーの。」

そのときの沢松の笑みは、見たものを凍りつかせる冷たさがあった。



########

(やっぱりつけてやがったのかあいつ〜〜!)

着替えの間は、まだ目立っていなかったようだが時間の経過と共に色が目立ってきたのだ。


「吐け!誰につけられたんだ?!」

目の前の犬飼は声を荒げて問い詰める。




すると、天国はすっと表情を変える。
野球部員の誰も見たことのない。


無表情のような表情。



そして天国はいつもより大きい声で、こう言い捨てる。



「恋人以外なんだっつんだよ!?」


「「「「!!!!!!!」」」」






その後、数十分はショックで硬直した部員たちの姿があった。









「たくらみにのってやったんだ。
 今後一段と濃い愛情を期待していいんだろうなあ?沢松くん?」



「今でも十分濃厚だっつーの。」


質は最高級だから 後は量を増やすしかねえだろ?



大幅に、な?


                                          end



えらく沢松くんが黒くなってしまいました。;)
由宇さま、大変遅くなりまして申し訳ありませんでした!
相変わらず男前でハンサムな天国に関してはあまり消化できていませんね…。
しかもなんだかかなり大人な関係?(笑)
どこにも隙間のないほどのラブラブバカップルな沢猿となりました。
それとキスマークの時間経過云々はいい加減です。(苦笑)
話の流れでこういう形に収まりましたが、じっさいはどんなもんだか知りません(殴)

もみじちゃん…あまり登場させた意味がなかったです。

重ね重ね申し訳ありませんでした…!

こんな奴のサイトですが、できましたらまたいらしてくださいね。
お待ちしています!

リクエストありがとうございました!


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